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大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)1074号 判決 1989年2月28日

控訴人

苦瓜顕一

右訴訟代理人弁護士

橋本武

被控訴人

藤本義衍

被控訴人

藤本眞鈴

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

三  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  別紙物件目録一記載の土地につき、控訴人が一八八六八分の七七七六の共有持分権を有することを確認する。

3  被控訴人らは、控訴人に対し、各金一八〇万〇五二二円を支払え(当審において追加された予備的請求)。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨。

第二  主張

(請求の原因)

一  主位的請求

1(一) 藤本勝治(以下、勝治という。)は、福本茂(以下、福本という。)に対し、昭和三六年二月二八日、その所有にかかる別紙物件目録二記載の土地(以下、本件従前地という。)のうち、四七一七分の一九四四の共有持分権(以下、本件共有持分権という。)を売り渡した。

(二) 仮に、勝治と福本との右売買契約が別紙物件目録一記載の土地(以下、本件土地という。)のうち、別紙図面B部分の土地(以下、本件B土地という。)を対象とするものであったとしても、本件売買契約当時、本件B土地は本件従前地に対する仮換地の特定の一部分であったのであるから、仮換地の特定の一部分に対する権利の処分契約は、仮換地全体の面積(本件の場合47.17坪)に対する処分契約の対象となった仮換地の特定部分の面積(本件の場合19.44坪)の比率に応じた従前の土地につき締結され、右持分、すなわち四七一七分の一九四四の共有持分権につき処分の効果を生ずるものである(最高裁昭和四三年(オ)第三八一号、同年九月二四日判決)。

2 控訴人は、福本から、昭和三六年三月六日、山本正名義をもって本件共有持分権を買い受けた。

3 本件従前地について、昭和五九年九月二二日、本件土地に換地処分がされた。

4 被控訴人らは、勝治とその妻藤本芳子(以下、芳子という。)との養子であるが、昭和五三年一〇月一日、勝治が死亡したので被控訴人ら及び芳子が勝治の一切の権利義務を相続し、昭和六〇年四月一四日、芳子が死亡したので被控訴人らが芳子の一切の権利義務を相続し、もって、本件土地について各一八八六八分の五五四六の共有持分権を取得した。

5 被控訴人らは、本件土地が控訴人との共有関係にないとして争っている。

6 よって、控訴人は、被控訴人らに対し、控訴人が本件土地について、一八八六八分の七七七六の共有持分権を有することの確認を求める。

二  予備的請求(当審において追加)

1 勝治は、福本に対し、昭和三六年二月二八日、その所有にかかる本件従前地に対する仮換地のうち、本件B土地を売り渡した。

2 控訴人は、福本から、同年三月六日、山本正名義をもって本件B土地を買い受けた。

3 昭和五九年九月二二日、本件従前地について、本件土地に換地処分がされたが、本件土地は、本件従前地及び仮換地とほぼ同一土地部分に換地されたいわゆる現地換地である。

4 主位的請求原因4記載のとおり、被控訴人らは、勝治及び芳子の権利義務を相続し、もって、本件土地のうち本件B土地以外の部分、すなわち別紙図面A部分の土地(以下、本件A土地という。)について各二分の一の共有持分権を取得した。

5 本件従前地に対する仮換地指定面積は155.93平方メートルであり、これに対し、換地面積は164.93平方メートルが割り当てられ、9.00平方メートルが増面積となったのであるから、右面積のうち四七一七分の一九四四に相当する3.709平方メートルが控訴人の買い受け土地(本件B土地)に対して割り当てられたものである。

6 被控訴人らは、控訴人に割り当てられた土地面積に相当する土地を不当利得する結果となるところ、右不当利得額は、右土地部分の時価相当額金四〇〇万円から控訴人が負担すべき清算金三九万八九五五円を控除した残金三六〇万一〇四五円(被控訴人ら各金一八〇万〇五二二円)である。

7 よって、控訴人は、被控訴人らに対し、不当利得金各金一八〇万〇五二二円の支払を求める。

(請求原因に対する認否)

一1(一) 主位的請求原因1(一)のうち、勝治が従前地を所有していたことは認め、その余は否認する。

(二) 同1(二)は争う。

2 同2は不知。

3 同3は認める。

4 同4のうち、勝治、芳子が死亡し、被控訴人らが同人らの権利義務を相続したことは認め、その余は否認する。

5 同5は認める。

二1 予備的請求原因1は認める。

2 同2は不知。

3 同3、4は認める。

4 同5、6は争う。

(被控訴人らの主張)

勝治は、昭和三六年二月二八日、福本に対し、本件従前地に対する仮換地のうち、同地上に存在する建物(姫路市下白銀町六番地一家屋番号八七番店舗兼居宅木造亜鉛メッキ鋼板杉皮葺二階建一階39.66平方メートル、二階39.66平方メートル)の西側の柱一杯を境界として、それより東側の土地19.44坪(本件B土地)を測量し、同土地と同地上の右建物を売り渡したものである。したがって、換地処分の結果、換地面積が仮換地面積より9.00平方メートル増加したとしても、右境界が変更することはないし、右増面積を按分比例計算した3.709平方メートルが控訴人に割り当てられるものでもない。加えて、本件土地につき、仮換地と換地とでその地積の表示に相違があるが、その具体的範囲は当初から不変である。

なお、右売買によって本件従前地について、福本に対する共有持分権移転登記がなされているのは、右売買当時、土地区画整理事業をしていた姫路市が二〇坪未満の土地については分割を許さない方針であったため、分筆登記をすることができなかったからであり、控訴人は、右登記に関する事情を了知しており、控訴人主張にかかる善意の第三者ではない。(被控訴人らの主張に対する控訴人の反論)

一  被控訴人らの主張は否認又は争う。

二  被控訴人ら主張のごとくであるとしても、勝治と福本が合意の下に事実と相違する登記をなしたものであって、第三者である控訴人は右事情を知らずに登記を信用して善意で本件土地に対する共有持分権を買い受けたのであるから、民法九四条二項により被控訴人らは、控訴人の右共有持分権の取得を否定することはできない。

第三  証拠関係<省略>

理由

第一主位的請求について

一まず、主位的請求原因1(一)について検討する。

控訴人は、福本が勝治から本件従前地のうち、四七一七分の一九四四の共有持分権を買い受けた旨主張するところ、右主張事実に沿う証拠として、<証拠>が存在するが、後記認定の本件売買契約及び登記手続に関する経緯等の事実関係に徴すると、右甲号各証をもってはいまだ右主張事実を認めるには至らず、また、証人苦瓜の証言は後記のごとく措信し難く、ほかに右事実を認めるに足る証拠はない。

よって、主位的請求原因1(一)は認めることができない。

二次に、同1(二)について検討する。

勝治が本件従前地を所有していたこと及び主位的請求原因3については当事者間に争いがなく、右争いのない事実に<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

昭和三六年二月当時、勝治所有にかかる本件従前地に対する仮換地(以下、本件仮換地という。)上には、本件土地の現状と同一の二棟の建物が軒を接して存在していたこと、勝治は、同年二月二八日、福本に対し、本件仮換地のうち、右地上の東側に存在する建物(換地前の表示・姫路市下白銀町六番地一家屋番号八七番店舗兼居宅木造亜鉛メッキ鋼板杉皮葺二階建一階39.66平方メートル、二階39.66平方メートル)の西側壁面を残地(本件A土地)との境界とし、同境界から東側に存在する土地部分を測量し、その面積が19.44坪であるとして右建物と共に金一四〇万円で売り渡したこと、右売買された土地部分は、本件土地の内の本件B土地と一致すること、本件仮換地上の建物の状況が右のとおりであるため、将来なされる換地処分の結果によって、右合意された境界を動かすことは困難であり、予定されなかったこと、右売買契約締結当時、右土地地域を対象として区画整理事業を実施していた中播都市計画事業姫路復興土地区画整理事業施行者である姫路市長が二〇坪未満の土地の売買を原因とする分筆(仮換地の再指定)を認めない方針であったことから、勝治らは、右売買契約による土地所有権移転登記手続を右仮換地の面積47.17坪に対する本件B土地の面積とされる19.44坪の比率である四七一七分の一九四四の持分移転登記をもって経由したこと、右売買契約は、控訴人の父苦瓜五郎が控訴人のため右建物とその敷地を買い取ろうとしたが、苦瓜五郎と勝治との間に両者の所有地の境界をめぐって紛争があったことから、控訴人名義をもっては買い受けることができないため、福本に対し、同人名義をもって買い受けることを依頼して福本に締結してもらい、その上で福本から控訴人のために山本正名義をもって買い受ける形式を取ったものであること、それ故、控訴人側では右売買契約における面積、境界に関するとりきめ、共有持分権移転登記についての右諸事情を了知していたこと、その後、本件仮換地の面積は、メートル法をもって表示された際には155.93平方メートルとされ、昭和五九年九月二二日、本件土地に換地処分がなされた時にはその面積が164.93平方メートルとされたが、本件土地の現実の範囲は、右売買契約締結当時の本件仮換地の範囲と同一であり、右換地処分時に仮換地の面積より増加したのは、主として測量方法の相違に起因するものであること、本件従前地と本件土地との位置関係は、本件土地の大半が本件従前地に含まれる関係にあること、

以上の事実を認めることができ、<証拠判断略>。

右認定の事実によると、福本が勝治から買い受けたのは本件B土地であるが、勝治及び福本が登記手続上、本件従前地に対する共有持分権について売買がされたような形式を取ったのは、本件地域が区画整理事業の継続中であったことから右土地に対応する従前地の分割、分筆をすることが右整理事業施行当局から許されなかったので、やむなくしたものであること、本件B土地の売買は、その土地の地目、地積、所在地及び地上の建物を含む現実の土地の利用状況に着目してなされ、また、本件仮換地と換地(本件土地)との間で現実の土地の範囲に相違がなく、仮換地の面積と換地のそれが異なるのは主として測量方法の相違に起因していること、本件売買契約締結当時における本件仮換地の現実の利用状況から、将来なされる換地処分の結果によって本件A土地と本件B土地との境界を動かすことが困難であり、売主、買主においてそれを予定していなかったことが明らかであるところ、このような場合には、本件売買契約締結時において本件B土地に対応する従前地の土地部分が特定されず、また、特定することができなかったとしても、本件B土地を買い受けた者は、本件従前地に対する換地処分によって本件B土地の所有権を取得するに止まり、右土地の範囲を越えて本件土地全部に対する共有持分権を取得するものではないと解すべきである。なお、控訴人引用の最高裁昭和四三年九月二四日第三小法廷判決(民集二二巻九号一九五九頁)は、仮換地の特定の一部分につき売買契約が締結されたが、いまだ換地処分がなされる以前において、右買主が従前地のどの部分に所有権を有するかが争点となった事例に関するものであって、事案を異にし本件には適切でない。

よって、主位的請求原因1(二)は認めることができない。

なお、控訴人は、民法九四条二項により被控訴人らは控訴人が本件土地に対する共有持分権を取得したことを否定できない旨主張するが、控訴人側において、本件売買に関する諸事情を了知していたことは前記認定のとおりであり、その取引の実態からすればむしろ控訴人は勝治からの買主と同視されるべきものであるから、民法九四条二項を適用しうる場合でないことは明白であって、控訴人の右主張は採用できない。

三そうすると、その余の点について判断するまでもなく控訴人の主位的請求は理由がない。

第二予備的請求について

控訴人は、本件B土地を買い受けたことを前提に、本件仮換地の面積より換地処分による面積が9.00平方メートル増加したので、右増加面積のうち、控訴人に四七一七分の一九四四に相当する3.709平方メートルが割り当てられるべきであると主張するのであるが、控訴人が福本を通じて買い受けたのは、前記のとおり、本件土地のうち本件B土地であって、本件土地に対する分数的割合の持分権ではないのであるから、本件仮換地の面積が換地処分の結果数量的に増加したとしても、右増加分の一部が本件B土地に当然に割り当てられるべきであるということにはならない。

よって、控訴人の予備的請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

第三結論

以上の次第で、控訴人の主位的請求は理由がないから、これを棄却した原判決は正当であって本件控訴は理由がないから棄却することとし、当審において追加された予備的請求は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官石川恭 裁判官大石貢二 裁判官松山恒昭)

別紙物件目録

一 姫路市南町六〇番

宅地  164.93平方メートル

二 姫路市下白銀町六番一

宅地  167.00平方メートル

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